センセイの鞄
川上弘美の『センセイの鞄』は、静かな静かな恋愛小説だった。ゆっくりゆっくり育っていく気持ちがゆっくり描かれている。読んでいる方も、ツキコさんとセンセイのペースに合わせて気持ちを育てていくことになる。
読んでいるうちに、ツキコさんと同じペースで少しずつセンセイへの想いは育っていった。
高校のときの国語教師だったセンセイと再会し、二人は飲みともだちになる、といっても、会えば一緒に飲む、という程度の関係だ。それが徐々に変わっていく。
若いときの、ドキドキするような、将来への夢に溢れた展開の早い恋愛とは違う恋愛を、ゆっくり楽しんだ。
時々、どきどきしながら。たまに胸を痛めながら。読み終えたあとも静かな余韻が残る。
昔、後輩に強く強く薦められた川上弘美さんの小説を今ようやく手に取った。
後輩にぜひにと薦められてからずっと長い間、気になりながらも読んだことがなかったのだが、後輩のあまりの熱心さに少しビビってしまったのだった。