『惨憺たる光』
人が抱える苦しみや悲しみ、光と闇、生と死、さまざまな面から人を描いた短編集だった。全部で10編の小説はそれぞれが人の生の重みに満ちていた。
人とはこれほどに苦労しながら「それでも」生きていかなくてはならないという現実を思わされる。
思いがけない出会いと別れ、複雑な人間関係、思い通りにいかない人生、私たちの努力では如何ともしようがない世界の変化。戦争や環境破壊や事故や病。
隣にいる親しい人のことでさえ助けることもできない現実。
人間の生はあまりにも生きるのに困難に満ちている。
けれども、これらの物語から感じるのは「それでも生きる」ということで、それが人生だということだった。
年老いた義理の両親のことをふと思い出させる『北西の港』を読んで、両親の若い頃のことを考えたりした。そしてこれからのことを。
彼らもまた、今日まで多くのものを背負いここまで生きてきたのだろう。けれども、私の目には彼らは「老人」でしかなく、彼らが若い頃に経験してきたこと、彼らが若かったことをリアルにイメージすることができない。
義両親は共に暮らすにはかなり大変な人たちで、一緒に暮らそうと言えない主人公の心情はよく理解できる。
私たちも、それぞれに人には言えない思いや経験を抱えて、一日一日生きて積み重ねて今日まで生きてきた。それは人から見れば、些細なことであるかもしれず、誰からも理解されない悲しみであるかもしれないが、それぞれにとっての重みは誰にも否定できない。
ただ、それでも生きていく、そういう力を持てますように。